BEPS 2.0 と BEPSプロジェクトとは?国際課税の最新トレンドを追う

BEPS 2.0 プロジェクト 国際課税 

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクト:国際課税の最新潮流を理解する

グローバル化が加速する現代において、企業の活動は国境を越えて広がり、それに伴い国際課税の重要性も増しています。特に近年注目を集めているのが、「BEPS 2.0」と「BEPSプロジェクト」です。

これらの取り組みは、多国籍企業による租税回避を防止し、国際課税の公平性・透明性を確保することを目的とした国際的なプロジェクトです。税理士はもちろん、グローバルに活躍する企業にとって、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトへの理解は必須と言えるでしょう。

本稿では、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトについて、初心者の方にもわかりやすく解説します。図表や具体的な事例を交えながら、その内容、背景、影響、そして企業が取るべき対応策などを詳しく見ていきましょう。

1. BEPSプロジェクトとは?

BEPSとは、「Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)」の略称です。BEPSプロジェクトは、OECD(経済協力開発機構)とG20が主導する国際的なプロジェクトで、多国籍企業による租税回避行為に対処することを目的としています。

従来の国際課税ルールでは、企業は物理的な拠点がある国にのみ課税されてきました。しかし、グローバル化の進展に伴い、多国籍企業は、税率の低い国や地域に利益を移転させることで、税負担を軽減するといった租税回避行為を行うケースが増加しました。

BEPSプロジェクトは、このような租税回避行為を防止するために、2013年に開始されました。2015年には、15の行動計画からなる最終報告書が発表され、各国で国内法制への導入が進められています。

1.1. BEPSプロジェクトの15の行動計画

BEPSプロジェクトでは、租税回避行為に対処するため、以下の15の行動計画が策定されました。

  1. デジタル経済:デジタル経済における課税上の課題に対処
  2. ハイブリッドミスマッチ:各国間の税制の差異を利用した租税回避への対処
  3. 受動的法人への課税:ペーパーカンパニーなどを利用した租税回避への対処
  4. 過大な利子控除の制限:過大な負債を利用した租税回避への対処
  5. 有害な租税慣行への対処:税率の低い国や地域への優遇税制の見直し
  6. 租税条約の濫用防止:租税条約の不適切な利用の防止
  7. 恒久的施設の定義:課税対象となる拠点の明確化
  8. 無形資産:無形資産の移転による租税回避への対処
  9. リスクと資本:リスクと資本配分を利用した租税回避への対処
  10. その他のハイリスク取引:移転価格税制など、租税回避に利用されやすい取引への対処
  11. データ収集:租税回避に関するデータ収集の強化
  12. 強制開示ルール:租税回避スキームの開示義務付け
  13. 紛争解決:国際的な税務紛争の解決手続きの改善
  14. 多国間文書:租税条約の改定を効率的に行うための多国間文書の作成
  15. BEPS 包括的枠組み:BEPSプロジェクトの成果を監視・評価するための枠組み

これらの行動計画は、多国籍企業の租税回避行為を多角的に捉え、その防止に向けた包括的な対策を提示しています。

2. BEPS 2.0とは?

BEPS 2.0は、BEPSプロジェクトの成果を踏まえ、デジタル経済の進展などに対応するために、2019年に開始された新たな国際課税ルールの構築に向けたプロジェクトです。

BEPSプロジェクトでは、主に従来の国際課税ルールの隙間を埋めることに焦点が当てられていましたが、BEPS 2.0では、デジタル経済に対応した新たな課税ルールの創設など、より抜本的な改革を目指しています。

BEPS 2.0は、「第1の柱」と「第2の柱」の2つの柱から構成されています。

2.1. 第1の柱:市場国への課税権の配分

第1の柱は、一定規模以上の多国籍企業に対し、その売上高や利益の一部を、実際にサービスを提供している国(市場国)に配分し、課税できるようにするものです。

従来の国際課税ルールでは、物理的な拠点がある国にのみ課税権が認められていましたが、デジタル経済では、物理的な拠点がなくても、オンライン上でサービスを提供することで利益を得ることが可能となっています。

第1の柱は、このようなデジタル経済の特性を踏まえ、市場国にも課税権を認めることで、国際課税の公平性を確保することを目的としています。

具体的には、以下の2つのルールが提案されています。

  • Amount A:一定規模以上の多国籍企業の超過利益の一部を、市場国に配分するルール
  • Amount B:市場国における販売・流通活動に対する一定の利益を、市場国に帰属させるルール

これらのルールは、複雑な計算方法や適用要件などが含まれており、現在も議論が続けられています。

2.2. 第2の柱:グローバルミニマム課税

第2の柱は、多国籍企業に対し、世界全体で最低15%の税率を課すことで、税率の低い国への利益移転を防ぐことを目的としています。

グローバルミニマム課税は、以下のルールから構成されています。

  • 所得合算ルール(IIR):多国籍企業グループの構成法人のうち、実効税率が15%を下回る法人が存在する場合、その親会社がある国が、不足する税額を徴収するルール
  • 軽課税所得ルール(UTPR):IIRが適用されない場合でも、実効税率が15%を下回る法人の所得に対して、一定の制限を設けるルール
  • 対象税制(QDMTT):途上国における源泉地国課税の強化

これらのルールにより、多国籍企業は、世界全体で最低15%の税金を納めることになります。

3. BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトの影響

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、多国籍企業の税務戦略に大きな影響を与える可能性があります。

  • 税負担の増加:グローバルミニマム課税の導入により、税率の低い国に拠点を置く企業の税負担が増加する可能性があります。
  • コンプライアンスコストの増加:新たな国際課税ルールへの対応に伴い、コンプライアンスコストが増加する可能性があります。
  • 事業構造の見直し:税務上のメリットを享受するために、事業構造の見直しが必要となる可能性があります。

4. 企業が取るべき対応策

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに対応するため、企業は以下のような対応策を検討する必要があります。

  • 情報収集:BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに関する最新情報の収集
  • 影響分析:自社への影響を分析し、対応策を検討
  • 税務戦略の見直し:グローバルな税務戦略の見直し
  • コンプライアンス体制の強化:新たな国際課税ルールに対応するためのコンプライアンス体制の強化
  • 専門家への相談:税理士などの専門家への相談

5. まとめ

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際課税の公平性・透明性を確保するための重要な取り組みです。これらのプロジェクトは、多国籍企業の税務戦略に大きな影響を与える可能性があるため、企業は適切な対応策を講じる必要があります。

税理士は、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに関する専門知識を習得し、顧客企業の国際課税に関する相談に対応できるよう準備しておく必要があります。

注記:本稿は、OECDの公表情報に基づいて作成されています。BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトの内容は、今後変更される可能性がありますので、ご注意ください。

付録:図表と事例

図表1:BEPSプロジェクトの15の行動計画

行動計画 内容
1. デジタル経済 デジタル経済における課税上の課題に対処
2. ハイブリッドミスマッチ 各国間の税制の差異を利用した租税回避への対処
3. 受動的法人への課税 ペーパーカンパニーなどを利用した租税回避への対処
4. 過大な利子控除の制限 過大な負債を利用した租税回避への対処
5. 有害な租税慣行への対処 税率の低い国や地域への優遇税制の見直し
6. 租税条約の濫用防止 租税条約の不適切な利用の防止
7. 恒久的施設の定義 課税対象となる拠点の明確化
8. 無形資産 無形資産の移転による租税回避への対処
9. リスクと資本 リスクと資本配分を利用した租税回避への対処
10. その他のハイリスク取引 移転価格税制など、租税回避に利用されやすい取引への対処
11. データ収集 租税回避に関するデータ収集の強化
12. 強制開示ルール 租税回避スキームの開示義務付け
13. 紛争解決 国際的な税務紛争の解決手続きの改善
14. 多国間文書 租税条約の改定を効率的に行うための多国間文書の作成
15. BEPS 包括的枠組み BEPSプロジェクトの成果を監視・評価するための枠組み

図表2:BEPS 2.0の2つの柱

内容
第1の柱 市場国への課税権の配分
第2の柱 グローバルミニマム課税

事例:多国籍企業A社のケース

多国籍企業A社は、世界各国で事業を展開しており、その売上高は年間100億ドルに達します。A社は、従来、税率の低い国Bに本社を置き、世界各国の subsidiaries からの利益をBに集中させることで、税負担を軽減していました。

しかし、BEPS 2.0のグローバルミニマム課税が導入されると、A社は、世界全体で最低15%の税金を納める必要が生じます。そのため、A社は、税務戦略の見直しを迫られることになります。

A社は、BEPS 2.0への対応として、以下のような対策を検討しています。

  • 本社機能の移転:税率の高い国に本社機能を移転する
  • 事業構造の見直し:各 subsidiaries の機能や役割を見直し、利益配分を調整する
  • タックスプランニング:租税条約などを活用したタックスプランニング

これらの対策を講じることで、A社は、BEPS 2.0による税負担の増加を抑制することができます。

6. 各国の動向

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際的な枠組みであり、各国が協力して取り組む必要があります。ここでは、主要国における動向を見ていきましょう。

6.1. 欧州連合 (EU)

EUは、BEPS 2.0の導入に積極的な姿勢を示しており、すでに指令案を公表しています。EU加盟国は、2023年末までに指令を国内法に transposed する必要があります。

6.2. アメリカ合衆国

アメリカ合衆国は、BEPS 2.0の導入に慎重な姿勢を示していましたが、バイデン政権下で積極的な姿勢に転じています。ただし、国内法制との整合性などの課題があり、導入にはまだ時間がかかる可能性があります。

6.3. 日本

日本は、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに積極的に参加しており、国内法制の整備を進めています。2023年度税制改正では、グローバルミニマム課税の導入に向けた改正が行われました。

7. BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトの課題

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際課税の公平性・透明性を向上させるための重要な取り組みですが、いくつかの課題も存在します。

7.1. 制度の複雑さ

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトのルールは非常に複雑であり、企業や税務当局にとって理解・運用が難しいという課題があります。

7.2. 各国間の調整

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際的な枠組みであるため、各国間の調整が不可欠です。しかし、各国の税制や利害が異なるため、調整が難航する可能性があります。

7.3. 途上国への影響

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、多国籍企業の税負担を増加させる可能性があります。途上国にとっては、多国籍企業からの税収が重要な財源となっているため、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトの影響が懸念されています。

8. デジタル課税の具体例

デジタル課税は、BEPS 2.0の第1の柱で導入される新たな課税ルールです。ここでは、デジタル課税の具体例を2つ紹介します。

8.1. オンライン広告サービス

多国籍企業A社は、オンライン広告サービスを提供しており、世界中で多くのユーザーを獲得しています。A社は、ユーザーのデータを利用して targeted 広告を配信することで、巨額の利益を上げています。

従来の国際課税ルールでは、A社は、サーバーを設置している国にのみ課税されていましたが、デジタル課税が導入されると、A社は、ユーザーがいる国(市場国)にも課税されることになります。

8.2. 電子商取引

多国籍企業B社は、オンラインで商品を販売する電子商取引事業を展開しています。B社は、世界中の顧客に商品を販売することで、巨額の利益を上げています。

従来の国際課税ルールでは、B社は、倉庫や物流拠点がある国にのみ課税されていましたが、デジタル課税が導入されると、B社は、顧客がいる国(市場国)にも課税されることになります。

9. グローバルミニマム課税の具体例

グローバルミニマム課税は、BEPS 2.0の第2の柱で導入される新たな課税ルールです。ここでは、グローバルミニマム課税の具体例を紹介します。

多国籍企業C社は、世界各国に subsidiaries を持ち、事業を展開しています。C社は、税率の低い国Dに subsidiaries を設立し、利益をDに集中させることで、税負担を軽減していました。

しかし、グローバルミニマム課税が導入されると、C社は、世界全体で最低15%の税金を納める必要が生じます。そのため、C社は、税率の低い国Dに subsidiaries を設立するメリットが薄れ、税務戦略の見直しを迫られることになります。

10. BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに関する情報源

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに関する情報は、OECDのウェブサイトなどで公開されています。

11. 税理士の役割

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際課税のルールを大きく変える可能性があります。税理士は、これらのプロジェクトに関する最新情報を収集し、顧客企業に適切なアドバイスを提供することが重要となります。

具体的には、以下の役割が期待されます。

  • 国際課税に関するコンサルティング
  • 税務申告書の作成・提出
  • 税務調査対応
  • 国際税務に関する情報提供

税理士は、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに対応することで、顧客企業の国際的な事業展開を支援し、その成長に貢献することができます。

12. まとめ

BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトは、国際課税の公平性・透明性を確保するための重要な取り組みです。これらのプロジェクトは、多国籍企業の税務戦略に大きな影響を与える可能性があるため、企業は適切な対応策を講じる必要があります。

税理士は、BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトに関する専門知識を習得し、顧客企業の国際課税に関する相談に対応できるよう準備しておく必要があります。

注記:本稿は、OECDの公表情報に基づいて作成されています。BEPS 2.0 & BEPSプロジェクトの内容は、今後変更される可能性がありますので、ご注意ください。

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